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椎名勇仁 トークイベント


9/18(土)にオープニングを行った「椎名勇仁 火山焼き」の初日に、アーティスト椎名勇仁のトークイベントを行いました。今回作成した作品を中心に別府での制作などについて語って頂きました。

椎名勇仁トークイベント
日時:2010年9月18日(土)
場所:platform02



僕は今年の3月に観光旅行で初めて九州を訪れたのですが、その際に別府にも立ち寄りました。別府に滞在しての印象ですが、僕が温泉地に対して抱いていたイメージに比べて別府は明るいなと思いました。というのも、別府が温泉で有名であることは知っていたのですが、僕のなかでは、温泉といえば山奥の薄暗い雰囲気で、ひなびた観光地という先入観がありました。しかし実際この地を訪れてみると、海も町に近く、温泉は町中の誰でも気軽に行ける位置にあり、明るい印象を受けました。そして別府は個性が強いという印象を持ちました。温泉にしても、人にしてもなんにしても個性が強いなという印象です。

今回、BEPPU PROJECTに呼んでいただいて滞在制作を行うにあたり、なにをしようかと考えました。僕は普段は造形作品を作るのですが、3週間という滞在期間は、造形作品を作るには十分ではない。そこで、KASHIMAの企画コンセプトのように、自分を湯治客として捉え、別府でゆったり過ごしながら普段できない作品をつくろうと考えました。

今回は2つの技法を利用して、粘土で立体作品をつくりました。その一つは「火山焼」です。これは粘土の焼くと固まるという性質を利用して、活火山に持っていって素焼きを行うものです。火山の熱で素焼が可能なのか試みる実験的なプロジェクトです。今年で10年目になります。

プロジェクトを開始した最初のきっかけは大学のころに遡ります。大学では彫刻を勉強していたのですが、粘土の彫刻は一般に次のような過程で作られます。最初に粘土で形を作って、そのままでは柔らかく、もろいので、石膏などで置き換えて、彫刻作品となります。このような工程を踏む彫刻作りにおいて、当初は粘土で形を作るところから始めたのにも関わらず、最終的な作品の形態が粘土ではないというところに違和感を覚えました。また変化や、物事の変形に関心があることも、きっかけの一つです。例えば、初めて素焼きを行ったときに、柔らかかった粘土が固く、かちかちになることに衝撃を受けました。たいていの物は、熱を加えて燃やすと、灰になり消えて無くなるのですが、粘土は逆に堅くなる。さらに一度火を通して固くなった粘土は、軟らかい状態に戻ることはない。その不可逆的な現象にびっくりしました。加えて、火を加えると固まる性質があったからこそ、粘土は歴史的に土器など造形の原料として利用されてきたわけで、その歴史的な側面は無視ができないと思いました。つまり、彫刻作成過程で感じた違和感と、粘土の持つ性質に対する興味が組み合わさり、火山焼を始めるきっかけとなりました。

以前、自分が扱っている粘土とはどのような物質なのか調べたことがあります。粘土は鉱物の仲間で、その由来は海底火山から湧き出てくる溶岩と考えることができます。地球はもともと溶岩の塊で、それが冷えて岩石になり、風雨や熱化学的な作用を受けて分解され、岩石が風化したものが粘土になる。例えるなら、巨大な岩に落ちる水滴が、何年もかけて岩を削ってできた穴があるとして、その穴から削られた分の岩石が粘土になるということです。

このような長い年月に渡る過程を経て今たまたま手元にある粘土を使って造形し、完成した作品を火山の火口まで持って行き、その熱で焼くわけです。物質としてとても長い過程を経て作られた粘土を、いわばその起源である火口へ戻す(素焼する)行為には、時間の超越という意味が含まれると思います。その特別な行為によって、何か特別な結果がもたらされるのではないかと期待しました。

もう一つの技法で作られたものが、台座の上の白色の作品になります。火山焼以外の作品を作る挑戦として、古典塑造と呼ばれる、仏像を粘土でつくる奈良時代の技法を、見よう見まねでやってみました。しかし古典塑造で作られた実際の作品には、今回の作品のようなひびは表面に入ることはありません。恐らく何か混ぜものが足りないのかもしれません。通常粘土は、造形した後に放置しておくと、ひびが入り、壊れやすくなってしまう。それを防ぐために、古典塑造においては、藁や砂などの配分を変えた数種の粘土を使い、作品内部を層状にして、乾燥させながら作っていきます。

僕の以前からのやり方では粘土が泥水のような状態から制作を開始して、少しずつ粘土を乾燥させながら造形して完成へ至るのですが、その過程で粘土の表情の変化を作品に込めることができます。最初は泥水だったものが、乾燥するにつれてクリーム状になり、近代彫刻が理想とする耳たぶと同程度の固さへと変化していく。さらに時間をかければ、指で触っても表面にへこみができない程度の固さとなり、最後には、やすりで削れるくらいの固さにもなる。このように、各過程における粘土の含有する水分量によって、粘土に加えることができる作業は異なり、それらの作業の蓄積が一つの作品を生むことになります。この方法は自分に合っていると感じていたのですが、最近になってその技法と古典塑造の近似に気づき、古典塑造に興味が湧いていました。今回はその興味を実行に移してみたのですが、あまり上手くいかなかったようです。

また話は火山焼に戻りますが。今回プロジェクトを行った場所は、塚原温泉を登った地点にある塚原火口です。しかし火口と言うよりは、噴気口と言った方が正しい場所でしょう。熱風が地面の亀裂から吹き上げてきてはいますが、噴気口に容易に近付くことができました。今回に限らず安全で近づきやすい火山を対象にプロジェクトを行うことが多いです。

プロジェクトを行う上で、最も危険なものが、ガスです。通常火山から噴出されるガスは二酸化硫黄と硫化水素、一酸化炭素などが含まれています。二酸化硫黄と硫化水素に関しては、独特の臭気があるので、直ぐに気づくことができます。しかし一酸化炭素に関しては、匂いもなく、空気よりも重い性質のために、窪地に溜まり、気づかないうちに害を受けることが多いらしいです。以上のような危険要素があるため、普段は自治体や国の管理の下で立入禁止となっている場所がほとんどです。プロジェクト実施の許可が下りることはほとんどありませんが、今回に限っては塚原火口を管理されている方の私有地であり、管理者からの許可も頂けたため、スムーズに制作に打ち込むことができました。


ここで具体的に作品を一つ一つ見ていきましょう。チェーンの付いた3つの作品は、土壁などのように藁を混ぜて補強した粘土でできています。チェーンは噴気口内に作品を降ろすために取り付けたものです。(会場向かって右側の壁の中央付近)写真にもあるように、作品の表面には金粉が振られています。それを噴気口から放出される蒸気で作品が溶けるのを防ぐために、アルミホイルに包んでいます。結果的には生焼け、いわゆる素焼されていない状態となり、表面の金粉は火山ガスと反応して、黒色になりました。

次の作品は、台座の上に粘土の欠片が見えると思います(会場向かって手前の右角)。重箱のようにとぐろを巻いた白い蛇の作品を作りました。蛇は中に卵を抱いているのですが、作品制作場所が熱を放出する火口であることと、卵を温めて孵化する事象とをかけています。この作品も同じようにアルミホイルに包んで火口に置いてみました。しかし、もろに蒸気を浴びてしまったために、粉々に砕けてしまいました。気に入って、上手く制作できた作品ほど、火山で焼く行程で失敗することが多いのですが、火山焼のプロジェクトは、焼き物として成功した事はないんです。ただそれは、わざわざ失敗という結果を自分で選んでいる側面もあるんです。人の手で作られるけれども、最後は自分よりも大きな存在の力を借りて完成させたいと思っているからです。決して成功しない行為を続けていますが、火山で焼くことと普通に窯で焼くことの間に何か違いがあるかといえば、それは火山焼では、新たな経験を得る事ができるということです。

粘土で物を作ることは空間や物質を扱う作業ですが、そのうち、粘土で何でも作れる気がしてきます。そのような万能観と、世の中で人間が街や道路など様々なものを作っていき、文明を発展させていくということはあまり変わらないのではないかと思ったことがあります。その考えを進めて、自由に変化させることができないものは何かと模索していると、それは時間ではないかと思うようになりました。そのため、冒頭で述べたように、時間の超越に興味を抱いています。

火山焼のプロジェクトでは、他人から「そんなことをしなくていいよ」と言われてしまうようなことを、あえてやり続けています。今回、何年かぶりに活発な状態の火山でのプロジェクトを行ったのですが、過去の制作中に抱いていた、どのような言葉で表せばいいか分からなかった感覚や思いを、別府ではしっくりする言葉を見つけることができ、口にすることができました。今、別府だから初めて言葉にできることがあります。

また、「形の着想はなに?」とよく聞かれることがあるのですが、だいたいは個人的なことが多いです。今回は、何か自分ではよく分からないけれど、思い浮かんでしまったものをつくりました。今回、初めて粘土にわらを混ぜてつくってみたのですが、わらを粘土に混ぜた事によって、とても不思議な強い匂いがする。昔の人たちも、この同じ匂いを嗅いでいたのだろうかと想像しています。


質問:粘土の中に火山灰が入っていますか
回答:入っていません。粘土の中には、別府の関の江海岸の砂浜で採取した砂を入れています。

質問:それぞれの作品のタイトルはあるのですか
回答:作品タイトルはそれぞれにありますが、今回の展示では特に重要ではないと思っています。

質問:それぞれの作品のモチーフを詳しく教えてください
回答:船(動きまわるもの)、山(ゆっくり動くもの)、鬼、二人の人物が片耳を共有している様子など、展示の台座は舞台のようなもの。

質問:別府滞在はどうでしたか
回答:3週間の滞在で、近所の永石温泉にも通い、満喫しました。

最後に、制作を手伝って下さった小川さんに感謝したいと思います。普段は一人で活動していますが、今回は事務局の小川さんと共に活動でき、彼のサポートで作品や展示が完成しました。

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