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太陽と潮風の島で。海を耕す人が育てる大入島オイスター。
持続可能な食文化を支える事業者FILE3:新栄丸[Cover Photo] これから選別・出荷する牡蠣を持つ、代表の宮本新一さん。
大入島の牡蠣は、海と太陽と潮の巡りが育てたもの。引き揚げて干す、その繰り返しで、殻は締まり、身はぎゅっと太りほかにはない生命力を宿していきます。
ひと口ふくめば、潮の香りと甘みがふわりと広がる。いのちの循環の中で生まれた、一粒の海の恵みです。
旅の時間に、ぜひ味わってみてください。
ひょうたんの島、海の恵みが生まれる場所
きらきらとした朝日が水面に揺れる早朝の佐伯港。通学や買い物へ向かう人たちを乗せたフェリーが静かに到着し、その入れ替わりの気配が、大入島と佐伯の暮らしの近さを物語っています。
港から船でおよそ10分。大入島は、上から見るとひょうたんのような形をしています。外海ではなく、佐伯湾という穏やかな内海に抱かれるような島の周りの潮の流れはやわらかい。黒潮と瀬戸内の潮が交わるこの海域は、透明度が高く、栄養を含む水がゆるやかに巡ることで、魚や海藻が育つ豊かな海のゆりかごになっています。
島の中央には遠見山がすっと立ち、その尾根からは佐伯湾と豊後水道が一望できます。季節ごとに海の色や光が変わり、島の暮らしもその移ろいの中で息づいています。
フェリーの船員さんは、島へ向かう私たちに「今日は何しに?釣り?オルレ?それとも大入島オイスター?」と気さくに声をかけてくれます。その言葉から、この島の牡蠣養殖が地元の人の自慢となっていることが伝わってきました。

佐伯港から約10分。ひょうたんの島へ、ゆっくりと近づいていきます。

幼い頃から大入島の海とともに暮らしてきた、新栄丸の宮本新一さん。
赤潮が気づかせてくれたこと
宮本さんが最初に挑んだのは、乾燥ナマコの加工でした。独学で温度や時間を一つずつ変えながら品質を探り、香港や台湾でも評価されるほどの技術に育て上げました。その試行錯誤の積み重ねが、海を読む目を養っていきます。
そんなある年、佐伯湾に大規模な赤潮が発生しました。深場の魚もサザエもナマコも命を落とす中で、試験的に育てていた岩牡蠣だけが生き残ったのです。

岩牡蠣は今もなお、垂下式で試験的に育てていると言います。
「牡蠣は赤潮に強い。しかも、海をきれいにしてくれる。」
この気づきは、宮本さんを“獲る”漁業から、海を守り“育てる”漁業へと向かわせる大きな転機になりました。
当時主流だったロープ式の養殖は、ムラサキガイなどが付きやすく、海にも牡蠣にも負担がかかる方法でした。より海にやさしい育て方を求めて、宮本さんは自分の目で見て確かめながら、大入島に合う方法を探し続けます。
そして数年後、のちに日本で初めて導入することになる、新しい養殖法との出会いへとつながっていきました。

小さな船で、一度に多くの牡蠣を運ぶことができるのが大入島の養殖の特徴だという。
潮と太陽で育つ。シングルシードとフリップファーム方式
試行錯誤の末に誕生した「大入島オイスター」。自然のリズムと最新技術で生まれたこの牡蠣は、大入島が誇るブランド牡蠣として、国内外で評価を高めています。
その育て方の中心にあるのが、一粒ずつ牡蠣を育てるシングルシード方式です。専用のバスケットの中で牡蠣が自然に転がり、殻が磨かれるように削れていくことで、殻の成長に使われるはずの栄養が身へと集中。ふっくらと旨味の濃い牡蠣に育つ、海の力を生かした養殖法です。

専用バスケットで一粒ずつ育ち、殻が整い、身がしっかり詰まった大入島オイスター。
最初のころ、宮本さんはこのバスケットを自分の手でひっくり返しながら天日干ししていました。干すことで牡蠣が元気に育つ。その効果を肌で感じていた宮本さんは、ある日、ニュージーランドで同じ発想から生まれた最新技術があると知ります。それが、「フリップファーム(Flip Farm)方式」でした。
「Flip(フリップ)」とは“ひっくり返す”の意味。牡蠣を入れたバスケットをフロート(浮き)に連結し、専用の装置でラインごと反転させて天日干しを行います。太陽と風の力で殻についたムール貝やフジツボが乾いて落ち、牡蠣は清潔なまま育っていきます。

バスケットを反転させるフリップファーム方式で、殻が自然に磨かれ、海もきれいにしてくれます。
そのうえ、作業の負担をぐっと減らしてくれる。この方式だと、手でひっくり返す時間も短縮化するうえ、出荷の際の洗浄など手間ひまのかかる作業がほとんど不要。にもかかわらず「丁寧に洗われているんですね」と言われるほど、見た目も美しく仕上がるといいます。
余計なゴミを増やさず、おいしく育てる。人の手を減らしながら、海の負担も減らすうれしい仕組みです。

船の上にあるのは、天日干しに欠かせないバスケット反転の道具。
日本で初めて宮本さんがフリップファーム方式を導入した2020年。作業効率は飛躍的に向上し、収穫量もおよそ10倍に増えました。自然の力を味方につけて育てる大入島オイスターは、ここから「ブランド牡蠣」としての歩みを本格的に進めていきます。
牡蠣は海の水をたくさんろ過し、赤潮の初期をやわらげる力もあると言われています。殻ができるときには海の二酸化炭素を抱え込み、海の循環にも寄り添います。「海を汚さず、海を育てる」。宮本さんが思い描いてきた養殖の形が、少しずつ実現し始めています。

1ラインに240かご。1バスケットあたり約4kgの牡蠣が入り、自然のプランクトンで育ちます。
世界へ届く、大入島オイスター
海に浸かったり、外気や光にふれたり。このリズムを毎日くり返すことで強く成長する大入島の牡蠣。
その生命力は、遠くへ旅するときにこそ実感できます。ドバイや台湾などへも生きたまま届けられ、4~5日かかるドバイへの輸送でも元気なまま到着します。天日干しで育まれた強さと、高い品質が評価され、いまでは世界の一流レストランやホテルでも提供されるようになりました。
大入島の海は透明度が高く、生活排水の影響も受けにくい静かな環境です。そのため近年の検査で安全性が高く評価されており、清らかな海で育つことが、牡蠣の健やかさとおいしさにつながっています。
潮の香りとうまみのバランスがよく、「ひと口で海を感じる」と料理人たちが口をそろえるほど。地元・大分市の居酒屋やオイスターバーなどでも人気が高く、おいしくて、海にもやさしい牡蠣として、国内外で静かにファンを増やし続けています。
そして大入島にも、真牡蠣のおいしさを一年中楽しめる場所があります。「大入島食彩館」では、ふらりと立ち寄った地元の方とのおしゃべりや、スタッフの皆さんのあたたかな笑顔がとても印象的。
旅先での、ちょっとした贅沢なひとときをゆったりと味わってみませんか。

島のレストラン・大入島食彩館で、蒸したての大入島オイスターを。
仲間とともに、海を育てる
「仕事がないと、島に住む人は来ない。」宮本さんはそう言いながら、働きやすい環境を整えるために空き家を改修し、若い世代がすぐに暮らし始められる寮もつくって移住者を迎え入れています。
東京から移住してきた、ユニークな経歴を持つスタッフもいます。宮本さんは「牡蠣が好きで来てくれたんです」と笑顔で話します。HPの更新から現場での作業まで、さまざまな仕事を楽しんでくれる頼もしい存在です。
また、フリップファーム方式は道具を使う時間が短く、空く時間が多いのも特徴です。「その空き時間を近くの養殖仲間と分け合う仕組みも、いずれ形にできたら。」宮本さんは、そんな未来の可能性にも心を寄せています。
稚貝を定期的に洗う繊細な作業、潮の読み方、海の変化を見極める感覚。宮本さんは、日々の小さなコツを一つずつ伝えながら、次の世代の海の担い手を育てています。

小さな牡蠣の赤ちゃんを、ていねいに育てていきます。
そんな取り組みは、地域の子どもたちにも広がっています。
先日、新栄丸の取組みのひとつとして、子どもたちに海の体験をしてもらいました。
船に乗るのが初めてという子も多く、海の生きものや牡蠣の育ち方を、目を輝かせながら聞いてくれたといいます。自分たちが食べる魚や海藻や牡蠣が、どんな場所で育ち、どのように加工されて食卓に届くのか。その体験は、きっと彼らの中に海とつながる感覚を残してくれたはずです。
「漁業を続けるというより、海という資産を育てる仕事なんです。」宮本さんの言葉には、海とともに生きる覚悟と優しさがにじみます。

海から引き揚げた牡蠣の大きさを丁寧に選別し、出荷の準備を整えます。

島外から移り住んだスタッフも、大入島オイスターを支え、この島で暮らし始めています。

海から大地へ、そしてまた海へ
海を耕すという営みは、ただ牡蠣を育てるだけではありません。おいしさを生み、海をきれいにし、働く人を支え、子どもたちの未来へ小さな種をまいていく。その一粒には、島をつなぎ、人を育てていく力が宿っています。
収穫を終えた牡蠣の殻は、乾燥・粉砕され、地域の畑へと届けられます。ミネラルを含む殻は土をやわらかくし、作物を育て、その養分はやがて海へと戻っていく。「ゆりかごから大地へ」。それは新栄丸が大切にしている循環のかたちです。

牡蠣殻は自社で細かく粉砕し、有機農業などの農家に再び生かされています。
牡蠣は海水をろ過し、赤潮を抑え、殻は大地を肥やす。その循環は自然だけでなく、人の暮らしへも広がり、島で働く人を呼び、若い世代の未来の仕事を育てていきます。

海を耕す循環の新栄丸の想いに共感して、島には新しい世代も増え始めています。
「森を耕すように、海を手入れする。海を育てることが、人を育てることだと思っています。」その言葉のとおり、海を整える営みは、人や地域の未来をも育んでいます。

「食べることは、海とつながること」。大入島オイスターが教えてくれます。
食べることは、海とつながること。大入島オイスターは、そのことを教えてくれます。大入島の海には今日も、潮が満ち、風が渡り、太陽が昇る。そのサイクルの中で、牡蠣も人も育ち、いのちの循環が続いています。
「大入島オイスター」を味わいに、大分へ
大入島食彩館
〒876-0008 大分県佐伯市久保浦1059-11 Googleマップ
TEL:0972-24-8550
営業時間:9:00~17:00
定休日:水曜日(要確認)
アクセス:佐伯港からマリンバス常栄丸に乗船、「堀切」目の前
2025年10月取材
