TOPICS

多面多種な大分県の魅力を知り検証する「大分学」

持続可能な食文化を支える人々 File2:楢本譲司さん

さまざまな領域でサステナブル・ガストロノミーを実践する方々にインタビュー取材してご紹介する「持続可能な食文化を支える人々」。

今回は一般社団法人 大分学研究会 代表理事の楢本譲司さんに、これまでの活動や食文化の継承に向けた取組についてお聞きしました。


 

地域の産品を選ぶことで、地域の産業や文化を守る

楢本譲司さん (一般社団法人 大分学研究会 代表理事)

 

大分学研究会は、大分県の魅力をさまざまな面から検証し、普及・発信しています。活動のきっかけとなったのは、政治学者の辻野 功さんの提唱でした。

 

大分県の魅力を発信する「大分学研究会」

京都の大学で教鞭をとっていた辻野さんは、定年後の移住先を探して全都道府県をつぶさに調べた結果、大分県を選んだそうです。しかし、移住後に大分県民から「どうして大分なんかにきたの?」と尋ねられることが多く、地元の人が地域の魅力を理解していないということにショックを受けたそうです。

楢本さんは、大分県の職員として2002年のサッカーW杯大分開催に関わり、そのレガシーを検証する委員会にも事務局として参加していました。在職中は観光に関する部署にいたこともあり、この間に辻野さんと知り合ったそうです。退職後も大分県の魅力発信に寄与したいと考えていたので、日本文理大学などで市民講座「大分学」を開いていた、辻野さんの提唱に賛同。それが大分学研究会の活動につながっていきました。

2013年からは「大分学検定」がスタート。コロナ禍以降はオンライン受験も可能になり、2023年度は県内外から165名もの方が受験されました。

 

大分の魅力は1つに絞りきれない!

「大分学検定」の特徴であり、難易度の高さでもあるのが、出題範囲の幅広さです。人文系・社会系・自然系の3系列から、方言、歴史、文化、食、地域・産業、スポーツ・芸能、自然・環境、温泉の8分野から出題されており、全国的にもこのように広範なご当地検定試験は類を見ないといいます。

「大分の魅力は1つに絞りきれません。地域ごとの違いがあって、実に多面的で多種の魅力が混在しているのが大分のいいところ。その魅力を知り、検証するのが大分学なんです」と、その理由を語ります。

さらに楢本さんは、「食も大分の大きな魅力の1つ。大分県は郷土料理も地域ごとに違いがあって、種類も多いんですよ」と教えてくれました。

大分学研究会の活動の1つに、「郷土料理の発掘と創造を目指した食文化創造事業」があります。発掘の分野として、県内各地の郷土料理を調査し、67品目のレシピを掲載した『今こそ作ってみたいおおいたの郷土料理』(西澤 千恵子 著/一般社団法人 大分学研究会 発行) を2018年に出版しました。

「創造」の分野では、郷土料理を「地域の食材を用いること」「地域の歴史や文化に裏付けされたストーリー性があること」と定義し、県内で活躍する6名のシェフが進化版郷土料理を考案。このレシピ動画は大分学研究会のWebサイトで見ることができるほか、料理講座も開催しています。

レシピ動画一例 (画像クリックで動画が視聴できます)

 

これらの活動は、より多くの人が大分県の郷土料理に関心を持ち、もっと気軽に作ってみたくなるよう、意識して企画されています。『今こそ作ってみたいおおいたの郷土料理』は、郷土料理にまつわるストーリーとともに、シンプルな調理工程をイラスト入りで紹介することで、読みやすく親しみやすい内容となっていました。

 

郷土料理を残していくために

また料理講座は、コロナ禍以降はオンラインも活用し、自宅に配達される大分県産食材を用いて、Zoomで講師の指導を受けながら郷土料理づくりを体験できるので、県外在住の方も気軽に参加できるようになりました。さらに、親子を対象にした料理講座も企画するなど、幅広い層に大分県の食文化を体験してもらえるようさまざまな工夫が重ねられています。

楢本さんは、郷土料理を残していくためには「その地域でその時期に採れた食材を選ぶという意識が大事。少々高くても、地域の産品を選んで使うことが、地域の産業や文化を守ることにつながります。それがサステナブルということだと思います」と教えてくれました。

大分県は起伏に富んだ地形に、山と海と川を有しています。それは豊かな食材をもたらすだけでなく、地域固有の文化も育んできました。大分学では、その文化をさまざまな角度からひもとくことで、誇るべき郷土の魅力を多面的に知ることができます。大分学研究会の活動は、郷土らしさを楽しみながら、未来へと繋いでいく担い手を増やしていく活動なのではないでしょうか。

楢本さんのお話と大分学研究会の活動から、地域固有の風土・文化と歴史と食は地続きであると再認識しました。そして、それらを総合的に学ぶことが、きっとより豊かな未来の可能性を拓くのではないかと予感しました。食においても、地域の食文化とその背景を知り、温めながら伝承・発展させていくことで、未来の食文化はもっと豊かなものになるでしょう。

 

*本記事の内容は2024年1月にインタビューしたものです。