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有機農業で環境を守る

持続可能な食文化を支える人々 File3:河野頼通さん

さまざまな領域でサステナブル・ガストロノミーを実践する方々にインタビュー取材してご紹介する「持続可能な食文化を支える人々」。

今回はNPO法人 おおいた有機農業研究会 事務局長の河野頼通さんに、知っているようで意外と知らない有機農業について詳しくお聞きしました。


 

なるべく有機の商品を選ぶことが、持続可能性の第一歩

 

河野頼通さん (NPO法人 おおいた有機農業研究会 事務局長)

 

おおいた有機農業研究会は、有機農業の普及によって健康増進と環境保全を目指すNPO法人です。具体的には、有機JASの認証業務や、有機JAS講習会の開催、機関誌「食と農」発行のほか、自治体単位での有機農業の普及推進支援や審査業務などもおこなっています。

有機を普及する理由

「有機野菜」や「オーガニック野菜」とは、化学的に合成された肥料や農薬を使用せずに、土地本来の力を利用した農法で生産された農作物などのことです。なぜ有機農業を推進するのかを河野さんに尋ねてみました。

「環境保全です。有機農業が普及すると、人と自然が共生することができるようになると考えているからです」

最近はスーパーマーケットなどの売り場でも見かけることのある「有機JAS」マーク。このマークは、おおいた有機農業研究会のような全国51の登録認証機関に検査を依頼し、有機の認証を受けたもののみに貼られています。

有機農業が環境を保全する

「有機JAS認証」取得の条件は、禁止された化学合成農薬や化学合成肥料を2年以上 (多年生作物の場合は3年以上) 使用していない農地で栽培していること。さらに、種や苗も有機で生産されたものを使用し、近隣からの禁止された化学合成農業や化学合成肥料の飛散・流入やそれらの用具などへの付着もないと認定されることです。これは周囲の環境なども大きく影響するため、個人や一企業の努力だけでは実現が難しいこともあります。労力と収入が見合わずに有機農業を辞めてしまう農家も少なくないそうです。

そこで、臼杵市の「ほんまもん農産物」や佐伯市の「さいきの恵み」など、「有機JAS」よりも基準をゆるめた独自の認証制度を設け、有機農業に取り組みやすい仕組みをつくっている地域もあります。

「有機農業は、一般的な農法に比べて手間暇がかかります。そのため、売価も1~3割ほど高くなってしまいます。それでも推進する理由は、有機農業が環境に優しいからです。

農薬や化学肥料で虫や微生物を排除してしまうと、生態系が崩れ、昔ながらの環境を破壊してしまいます。農薬や化学肥料が絶対悪とは言いません。環境に配慮して、適正に使うことが大事なんです」と河野さん。そして、消費者についても「自分も環境を守っている一員なんだという意識を持って、有機食品を積極的に購入していただきたいですね」

地域ぐるみで有機を推進

現在、大分県内で有機に取り組んでいる農家は、全体の0.5パーセントほどなのだそうです。これは全国的に見ても平均的な数字です。

農林水産省は「みどりの食料システム戦略」として、2050年までに有機ほ場の面積の割合を全国の農地面積の25% (100万Ha) まで拡大することを目指しており、これを推進するために有機農業に地域ぐるみで取り組む産地 (オーガニックビレッジ) の創出に取り組む市町村を支援しています。

大分県内では現在、佐伯市や臼杵市、豊後高田市がオーガニックビレッジを宣言しています。これらの地域が牽引し、有機の推進に積極的な自治体が増えています。また、有機JASの認証を希望する農家も多く、1週間に2~3件の問い合わせがあるそうです。

さらに近年は、消費者も有機農業に対する意識が高くなり「有機の農産物はどこで買えるのか?」という問い合わせを受けることも多いのだそう。

なるべく、できることから始めればいい

河野さんのお話から、有機農業がなぜ持続可能のキーワードになっているのか、そして有機農業が持続可能であるために、自治体、生産者、消費者が意識を高めて連携することが重要であることを、改めて知ることができました。

しかし、有機ばかりにこだわっていては生産量が安定しませんし、品目や価格を考えても、日々の食卓が成り立ちません。河野さんも「生産者も消費者も、一気に変える必要はありません。なるべく、できることから始めればいい」といいます。

認証のため農地に行って、生産者に有機への思いを聞くこともあるという河野さん。「有機に取り組む農家さんは、本当にいい顔をしている。その表情を見ることが喜びでもあります。食卓に少しでも多くの有機食材が並んでくれたらいいですね」

私たちの日々の小さな意識が、環境を守り、食文化の持続可能性につながっていきます。小さくても、できることから「始める」という意識が大切なのだと、深く実感しました。

*本記事の内容は2024年1月にインタビューしたものです。