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世界に誇る食文化創造都市・臼杵市の取組

持続可能な食文化を支える人々 File4:佐藤一彦さん

さまざまな領域でサステナブル・ガストロノミーを実践する方々にインタビュー取材してご紹介する「持続可能な食文化を支える人々」。

今回は臼杵市 政策監の佐藤一彦さんに、臼杵市が食文化創造都市に加盟を目指すまでの経緯と現在の取組、今後の展望についてお聞きしました。


 

誇るべき地域の食文化を磨き、継承していくために

 

佐藤一彦さん (臼杵市 政策監)

 

臼杵市は、これまで大切に守り育ててきた多彩な食文化を軸に持続可能なまちづくりを進めていることが評価され、2021年11月にユネスコ食文化創造都市ネットワークへの加盟が認められました。

臼杵市長が食文化創造都市としてネットワークへの加盟を目指すことを発表してから加盟まで、なんと約1年という異例のスピードだったそうです。食文化分野では臼杵市の加盟は食文化分野では国内で山形県鶴岡市に次いで2例目。まずは臼杵市が食文化創造都市を目指したきっかけや、評価のポイントをお尋ねしました。

 

ユネスコ創造都市ネットワークってなに?

「ユネスコ創造都市ネットワークは、都市間で知識や取組を共有し、創造性を活かして持続可能な発展に役立てようとする国際ネットワークです。他都市と情報を交換する機会を得ることで、臼杵の取組をより推進するとともに世界に向けて発信し、多くの都市と交流連携をしていきたいと考えたんです」

食文化創造都市・臼杵の特徴

佐藤さんは、臼杵市の食文化が評価されたポイントは「醸造・発酵文化」「質素倹約から生まれた郷土料理」「地産地消の有機農業の振興」の3つだったと言います。

「醸造・発酵文化は約400年前に興り、今も市の主要産業となっています。江戸時代に質素倹約の精神から生みだされた郷土料理は、今も市民や飲食店に浸透しています。このことはSDGsの考え方にもマッチします」と、佐藤さん。臼杵の食文化が地域の特性や、地理・歴史・資源などの背景から必然的に生まれたものであり、今もその環境を維持することで無理なく受け継がれているのだということが伺えました。

そして、臼杵の有機農業の振興は「食べる人のことを考えた農業施策」なのだと言います。臼杵では有機農業や土づくりを推進をしており、2010年には市が運営する「臼杵市土づくりセンター」を開設しました。

 

このセンターで製造した完熟堆肥を用いた土づくりによる有機農業を推奨するため、地域独自の認証制度「ほんまもん農産物」を設けました。この認証を受けた生命力のある農産物を市民に食べてもらえるよう、地産地消を推進。学校給食での提供も実践しています。

こうした誇るべき文化をさらに磨き、継承していくために、ユネスコ食文化創造都市ネットワークへの加盟の必要性を感じたそうです。

そこで、申請締め切りまで短時間でしたが「とにかく申請してみよう」と、臼杵食文化創造都市推進協議会を立ちあげ、急ピッチで準備を進めました。1回目の申請で加盟が認められた背景には、市民や食文化関係者だけでなく、文部科学省や県、国内外の食文化や創造都市の事例に詳しい経済団体のバックアップもあったそうです。

 

加盟後の変化や気づき

「我々は臼杵のことしか考えていなかったのですが、交流を通じて他都市がグローバルな視野を持って活動していることに驚きました」と、佐藤さん。イタリアでおこなわれている世界最大級の食のイベント「テッラ マードレ・サローネ デル グスト」にも出展するなど、世界に向けて臼杵の食文化を発信する機会も増えました。

当面の課題については「消費者の皆さんに第一次産業にもっともっと関心を持ってほしい」と、語ります。
「臼杵の食文化を持続していくには、消費者の理解が大事です。環境保全やその再生を重視した農林水産業が持続可能であるためには、食材を適正な価格で流通させることが必須です。その食材の価値を知る消費者が、積極的に消費することで、環境再生型のサイクルが構築できるのではないでしょうか」

食文化創造都市・臼杵の今後については「食文化創造都市推進事業を通じて市民の皆さんが、食文化創造都市であることを誇り、食に対する意識がもっと高まっていくことを期待しています」と佐藤さん。

臼杵市は、美しい水と豊かな自然に恵まれたまち。そこで地域資源を活用した完熟堆肥を作り、地元食材を地域内で消費することが、環境を守る循環を生んでいます。また、環境を維持することで、先人たちの技術やアイデアを活かし続けることが可能になり、産業や郷土料理を今に伝えているのです。

佐藤さんのお話を伺い、地域固有の資源の価値を知り、磨くべきもの、受け継いでいくべきものをより多くの人たちと共有することが、食や文化を持続可能にするのではないかと感じました。世界の食文化を牽引する臼杵市の、今後の取組にますます期待が高まります。

*本記事の内容は2024年1月にインタビューしたものです。