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深く正しく知ることで、食文化を持続可能にする

持続可能な食文化を支える人々 File5:梅木美樹さん

さまざまな領域でサステナブル・ガストロノミーを実践する方々にインタビュー取材してご紹介する「持続可能な食文化を支える人々」。

今回は別府大学 食物栄養科学部 食物栄養学科 教授の梅木美樹さんに 温泉地 別府ならではのサステナブルな調理法である地獄蒸しや、地域と学生との連携による商品開発の取組についてお聞きしました。


 

食文化の可能性を拡大して未来へつなぐ

 

梅木美樹さん (別府大学 食物栄養科学部 食物栄養学科 教授)

 

梅木先生は別府大学で調理学を専門に、地域独自の食文化の研究にも力を入れています。

調理の意義と目的は、学とは「衛生的で安全なものにする」「栄養性を高める」「おいしさの創出」の3つを基本としています。梅木先生は、それに加えて「食文化の継承」も大事な要素として捉えています。

伝統的な調理法「地獄蒸し」の研究

「郷土料理や伝統野菜だけでなく、昔から続く地獄蒸しのような調理法や、地獄蒸し窯のような調理器具なども次世代に受け継いでいきたい食文化です」と、梅木先生。

地域独自の食文化を題材に、その土地ならではの研究をしたいとの思いから、2017年に別府大学の教授に就任してからは地獄蒸しの研究もおこなうようになったそうです。

2017年には、別府ONSENアカデミア実行委員会が主催した『アクティブシニア層の健康増進モニターツアー』で提供する地獄蒸し料理の健康増進レシピ開発を依頼されました。4日間の行程で、毎食、地獄蒸しを活用したメニューを提供するため、市内他大学と分担し、さまざまな地獄蒸し料理を開発したそうです。
「学生と一緒に試行錯誤するなかで、イタリアンレストラン『オット エ セッテ 大分』を営む梯 哲哉さんからアドバイスを受けたんです。それをきっかけに、地獄蒸しが食材に変化を起こすメカニズムに興味を持つようになりました」

地獄蒸し窯は持続可能な調理器具!

調理器具としての地獄蒸し窯の魅力について、梅木先生はこう語ります。
「長時間食材を蒸すとき、普通の調理器具だったら、温度を一定に保ったり、定期的に注水したりしなければなりません。でも地獄蒸し窯だったら、天然エネルギーを利用しているので長時間蒸しも簡単にできます。ガスや電気、労力もかからないので持続可能な調理器具と言えるのではないでしょうか」

温泉成分が食材にもたらす変化については、現在も研究が進んでいるそうです。「おいしさは味覚だけで感知するものではありません。色、匂い、食感、環境など、さまざまな要因によって感じるものです。温泉による食材のさまざまな変化を分析し、数値化することで、地獄蒸しの魅力を広く伝えていきたいと思っています」

産官学の連携による『つるつるもち麦うどん』の開発

続いて、別府大学が2017年から取り組んでいる、地域産品を活用した商品開発プロジェクトについてお聞きしました。
「この『つるつるもち麦うどん』のプロジェクトは『大学等による「おおいた創生」推進協議会 令和2年度地域活性化事業』の一環として取り組んだものです。実際に商品化することは、地域産品の消費量・生産量を拡大し、地域経済への貢献も期待できます」

学生が考案した玖珠町産の大麦 (もち麦) を使用した『つるつるもち麦うどん』は、宇佐市の企業と連携で共同開発し、現在は玖珠町や由布市の道の駅などで販売されています。

日持ちのする乾麺は、広く流通ができるのが大きな利点です。学生がデザインした商品パッケージには、地域のシンボルである伐株山や鬼のイラストと「玖珠町」という文字が掲載されています。これは、商品とともに産地のイメージを県外に流通させ、玖珠町の認知度向上を図るというアイデアが込められています。

学生と連携することのメリット

こうした商品開発に学生が関わることについて、梅木先生は次のように語ります。

「学生たちは、大麦や玖珠町についてリサーチし、地域や生産・販売・流通の課題に向き合いながら、それぞれの専門性を活かして商品開発に取り組みました。それは学生にとって深い学びであるとともに、地域や行政には新鮮な視点からの発想や提案が、新たな気づきや刺激をもたらします。

また、学生が関わることによって、メディアに取りあげられやすくなるというのもメリットといえますね」

梅木先生の研究は、地獄蒸しの魅力を解析することで、地域固有の伝統的な調理法の可能性を拡大して未来へつなごうとするものです。私たちの食文化がサステナブルであるためには、深く正しく知ることが出発点なのかもしれません。そこに将来世代の視点を取り入れて、柔軟に開発・進化していくことも、継承のための重要な姿勢なのだと感じました。

*本記事の内容は2024年1月にインタビューしたものです。