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海を守り、持続可能性を目指す養殖システム『巡 (めぐり) 』

持続可能な食文化を支える人々 File8:河内伸浩さん

さまざまな領域でサステナブル・ガストロノミーを実践する方々にインタビュー取材してご紹介する「持続可能な食文化を支える人々」。
今回は、佐伯市蒲江の有限会社 河内水産を訪ね、ヒラメの養殖場を見学させていただきました。この養殖場で実践されている、環境に配慮し持続可能性を目指す養殖システム『巡』について、代表取締役社長 河内伸浩さんに伺いました。

 


 

海の資源を守るために

 

河内伸浩さん (有限会社 河内水産 代表取締役社長)


 

環境に配慮した独自の養殖システム

(有)河内水産は昭和60年創業。大分県佐伯市蒲江で、ヒラメやカワハギの水産養殖業を営んでいます。そのもっとも大きな特徴は、杵築市の株式会社 三六九 (ミロク) の特許技術「好熱菌を利用した高温発酵技術」を活用し、自社で開発した発酵飼料です。

 

同社がこの発酵飼料を使い始めたのは2000年頃。養殖場からの排水による環境負荷を気にしていた河内さんの父が、当時農業分野ではすでに導入されていた微生物に着目しました。餌に微生物を混ぜ込んでみたところ、海を浄化するだけでなく、魚を美味しく健康に養殖できることがわかったそうです。

この「美味しさ」については、成分分析を依頼し、数値的にも旨味成分の増加が確認されています。また、自家製発酵飼料の導入以降、「アマモ」の生育が確認されるなど、海底土壌の改善も見てとれたそうです。

 

参考:2025年1月29日発行 プレスリリースより

地域の資源を循環させる

河内さんは、地元の加工業者が廃棄するものでも、餌に使えるものは引き取るなど、なるべく地域の資源を無駄にせず、再利用するように心がけているそうです。

海藻類や魚の加工時に出る残渣などを飼料として魚に与えると、成長を促進し旨味成分を増加させます。しかし、そのまま与えてしまうと消化しづらく魚に負担がかかるので、発酵・分解させて飼料に混ぜているのだそうです。飼料の原材料には、地域で生産された人間が食べられるものだけを使用し、環境に優しい地域資源の循環を目指しています。

 

新ブランド「環境配慮型養殖『巡 (めぐり) 』」の誕生

『USUKI VENUE』は、「武家屋敷での感動交流体験」をコンセプトに掲げています。

河内水産はこれまで取り組んできた独自の養殖技術を「環境配慮型養殖『巡 (めぐり)』」と名付け、2025年2月に新ブランド『巡』を立ちあげました。
参考記事はこちら

新ブランド『巡』で提供を開始した『-巡養殖-ヒラメ』と『-巡養殖-カワハギ』

 

しかし、河内水産が自家製発酵飼料を導入したのは25年も前のこと。なぜ今ブランド化を決意したのでしょうか?
「生産者がどれだけ品質向上を目指しても、大口出荷では十分にアピールできず、他との差別化が図れません。美味しいものを作ることはできても、しっかり価値を伝えながら販売することは生産者には難しい」と河内さん。もっと広く、たくさんの方にその価値を発信するために、ブランド化を決意したそうです。

この新ブランド『巡』の誕生を大きく推し進めたのは、道の駅かまえ Buri Laboratory の店長 早川光樹さんとの出会いでした。

神奈川県出身で2019年に佐伯市蒲江に移住してきた早川さん。父の故郷が佐伯だったこともあり、子どもの頃はよく蒲江に帰省していました。その原体験があったからか魚が好きで、学生時代は漁村巡りをしたり、鮮魚店でアルバイトをしたりしていたそうです。大学4年生のときに、道の駅の指定管理者募集に応募し、道の駅かまえ Buri Laboratory の店長に就任。河内水産のヒラメの販売や発送だけでなく、神経抜きや冷やし込みなどの加工まで請け負っているそうです。
「うちの道の駅で取り扱うヒラメは河内水産のものだけです」と断言する早川さんに、その理由を尋ねると、「すごく美味しかったから、お客さんに伝えたかったんです」。
その価値に惚れ込み、深く理解している早川さんは、ディレクター、コピーライター、デザイナーとともに『巡』のブランディングにも協力したそうです。


(写真右:有限会社河内水産 代表取締役 河内伸浩さん、 左:株式会社 蒲江創生協会 代表取締役 早川光樹さん)

 

未来にこの景色を残していきたい

養殖ヒラメの生産量が、日本一と言われる大分県。なかでも蒲江は9割以上を占め、蒲江にはヒラメ小屋がたくさん並んでいます。しかし、高齢化により近年は徐々に養殖業者も減少傾向にあるそうです。
早川さんは「ヒラメ小屋が並ぶこの風景が消えてしまうのはやっぱり寂しいです。だからこそ、河内水産のような未来を見据えた取組を実践する企業と、食文化や風景をどうしたら未来に繋いでいけるのかを一緒に考えていきたいです」と言います。

25年前よりも環境問題がさらに深刻化するなかで、河内さんはますます地域循環を意識するようになったそうです。「美味しいだけでは売れない時代が来ています。課題と向き合い、大量消費型の養殖から脱却しなければ生き残っていくことができません。再利用や廃棄物利用も視野に、地域にそもそもある資源を有効に活用し、新たな価値を生み出して循環させることが、未来へと繋ぐためにできることだと考えています」
河内水産が開発した養殖システム『巡』は、地域資源を循環させることで、環境に配慮した持続可能性を目指しています。そもそも環境保全のために開発した発酵飼料でしたが、思いがけず美味しい魚を生産することに繋がり、そのこだわりと美味しさに共感し、惚れ込んだ人々の協力によってブランド『巡』は生まれました。
このブランドが広まっていくことが、ひいては佐伯市蒲江の漁村の風景を守り、より持続可能性の高い食文化を未来に継承することに繋がっていくのではないでしょうか。

 

*本記事の内容は2025年1月にインタビューしたものです。