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持続可能な食文化の鍵は「応用可能性」

持続可能な食文化を支える人々 File1:須藤智徳さん

さまざまな領域でサステナブル・ガストロノミーを実践する方々にインタビュー取材してご紹介する「持続可能な食文化を支える人々」。

今回は立命館アジア太平洋大学 (APU) の須藤智徳教授に、SDGsの基礎知識を教えていただくとともに、サステイナビリティ観光学部の食文化にまつわる研究についてお聞きしました。


 

将来世代により多くの可能性を渡すために

須藤智徳さん (立命館アジア太平洋大学 サステイナビリティ観光学部 教授)

 

須藤先生は、国際協力機構 (JICA) 勤務を経て、2015年にAPUの教授に就任されました。専門分野は経済学。なかでも、環境を経済的に価値づける「環境経済学」と、開発途上国の経済成長を考える「開発経済学」を専門としています。その背景には、JICA在籍時代に途上国の開発協力に従事し、経済成長と環境保全のバランスがいかに重要かを痛感した経験があったといいます。

そもそもSDGsって?

須藤先生の専門分野と密接に関わるSDGs。近年はすっかり浸透しましたが、その概念はなんと19世紀には存在していたのだそうです。1987年には国際的に定義されましたが、その後も内戦や紛争が続き、開発途上国の貧困や先進国との格差が深刻化します。そこで、2001年に開発途上国を対象に、2015年までに達成する8つの目標21のターゲット「ミレニアム開発目標 (MDGs : Millennium Development Goals)」がまとめられました。

これを前身として、2015年9月の国連サミットで提唱されたのが、先進国も対象とした「持続可能な開発目標(SDGs : Sustainable Development Goals)」です。

SDGsの第一人者でもある須藤先生は「SDGsとは、将来の世代の可能性を損なうことなく、現代のニーズにも答えるための開発目標です。将来、どんなニーズがあるのかはわかりません。だから私たちが将来の世代のためにできるのは、より多くの可能性を残すことなんです」と教えてくれました。

 

臼杵の食は、サステナブル?

須藤先生が教鞭をとるAPUのサステイナビリティ観光学部は、持続可能な地域経営と観光学の両方を学ぶことができるという、非常にめずらしい学部です。2023年4月に開設されたばかりの、この学部の学生たちが実施しているという、臼杵市の食文化を検証する研究についてお聞きしました。

「ユネスコ食文化創造都市に登録された臼杵市の食文化は、本当にサステナブルなのかを6つの視点から検証しています。サステナブルとは環境・経済・社会がバランスよく成長している状態を指します。そこで、臼杵市ではこの3つが本当にバランスよく発展しているのかを調査しました」と、須藤先生。

「流通」「消費と生産」「醸造・発酵文化」「経済構造」「自然環境」「海外の食文化との比較」の6つの視点で臼杵市の食文化を検証した研究の成果は、2024年2月3日に臼杵市内で発表されました。

 

 

食文化が持続可能であるために

須藤先生は、食文化を持続可能なものにする条件の1つに「応用可能性」があるといいます。

「たとえばポテトサラダはドイツの家庭料理ですが、具材や味付けなどのアレンジのしやすさから、世界中に広まりました。臼杵市を例にとるならば、黄飯やきらすまめしなどの応用可能性の高い伝統料理は、まさにサステナブルな食文化と言えるでしょう」

その料理が生まれた背景を理解し尊重しながら、食材や味付けを現代のニーズにマッチするようアレンジしていくことで、地域固有の食文化は未来へと可能性を残しながら受け継ぐことができるのだと教えていただきました。

最後に、観光の持続可能性についてお聞きしてみると、須藤先生は「観光を収益源にしてはいけない」と警鐘を鳴らしました。

「今、世界的に観光を手放す都市が増えてきています。コペンハーゲンやパリのように、イメージが定着している都市は、観光を積極的に売り出さなくても観光客が訪れます。それに、そういった成熟した都市には、観光以外に確立した産業を持っているんです。観光が持続可能であるためには、地域の経済を観光収入に頼るのではなく、より豊かな産業構造の構築を考えなければなりません」

 

「応用可能性」が持続可能の鍵

観光とは、地域外の視点から見た「非日常の価値」です。しかし、地域の持続可能性を考えれば、その地域に住む人にとっての「日常の価値」を高める必要があります。つまり、日常と非日常の均衡が取れていなければ、観光の持続可能性は保てないのです。

観光の重要なコンテンツの1つでもある食文化もまた、私たちの日常でもあります。地域固有の価値を見つめ直し、日常・非日常の両面から経済に結びつける方法を考えるだけでなく、将来世代にとって応用可能性の高い資源や選択肢をより多く残せるよう意識して行動すること。それが私たちの責任なのだと感じました。

 

*本記事の内容は2024年1月にインタビューしたものです。