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有機農業を持続可能なものにしていくために
持続可能な食文化を支える人々 File9:槌本俊貴さんさまざまな領域でサステナブル・ガストロノミーを実践する方々にインタビュー取材してご紹介する「持続可能な食文化を支える人々」。
今回は、臼杵市野津町で有機農法を取り入れ、多品種の有機野菜を栽培する槌本農園の槌本俊貴さんにお話を伺いました。
長野県の農場で学んだことや有機農業の課題、これからの農業や地域を持続可能なものにしていくために必要なものについてお聞きしました。
有機農業の価値をより多くの人に理解してほしい
槌本俊貴さん(槌本農園 代表)
多品種少量生産の農営スタイル
槌本さんは大阪府出身。東京の大学を卒業し、2016年に地域おこし協力隊として臼杵市に移住しました。
学生時代に農業に興味を持ち、就職活動のかわりに各地の農家を巡るなかで、臼杵市が実施した移住者向けのモニターツアーにも参加したそうです。
「農家になるということは、その土地から離れることができなくなるということです。それで就農する場所をなかなか決めきれずにいたのですが、このモニターツアーでの先輩移住者との交流が大きなきっかけとなりました」モニターツアーを通じて、臼杵市の有機農業推進の取組に感銘を受けるとともに、地域おこし協力隊の「有機農業隊員」の募集があることを知り、移住を決意したのだそうです。
その後、地域おこし協力隊の任命を受け、3年の研修期間を経て、2018年に槌本農園を開園。

槌本農園では多品種少量生産の方式を取っており、3haの土地で年間約80種類もの野菜を育てています。この営農スタイルは多品目を出荷できるだけでなく、天候や害虫の発生などのリスクを分散できるというメリットがあります。
より持続可能な農業経営のために
2022年、槌本さんは農園を一時休業していました。
槌本農園は中山間地にあり、機械化や規模拡大には不利な土地です。しかし、より安定した農業経営のためには、人員拡充や利益向上を目指す必要がある。栽培技術がまだ確立していない有機農業をこの土地で続けていくためには、もっと根拠に基づいた農業を実践しなければならない。これらの課題に直面した槌本さんは、農業経営のあり方を学ぶために、長野県の農場で半年間働くことを決めました。
槌本さんが働いた農場は数十名のスタッフを雇用し、有機で多品種を生産していました。そこでは1つひとつの品種の植物生理に適した農地の環境を作るため、土壌分析をおこない、データ管理と科学的なアプローチによって有機農業を安定させていたそうです。また、確かな情報や技術を蓄積し、スタッフ全員で共有するための仕組みが整備されていました。
槌本さんは長野県で働いた半年を「凝縮した学びでした」と振り返ります。

そして2023年4月から槌本農園を再開。スタッフを雇用し、タスクとリソースを可視化することで、いつ誰が何をおこなうのかをわかりやすく共有。効率化を図るために機械化も一部取り入れるなど、半年間で得た学びから、取り入れられるものは全て取り入れ、より持続可能な農業経営を目指して再スタートを切りました。
有機農業と中山間地の未来
このような経営努力の結果、槌本農園では補助金等に頼らない自走運営が可能になったそうです。「有機農家が農業だけで安定した収入を得るのはまだまだ難しい。でも、やっと道筋が見えてきました。胸をはって、有機農業だけでメシ食えてますって言えるようにしていきたいですね」と槌本さん。「有機農業は手間もコストもかかります。それが価格に現れてしまうので、慣行農法で作られた野菜と比較すると高価になってしまいます。有機野菜を選ぶ意味やその価値をしっかり伝える努力をすることが、これからの有機農業にとって大事なことなんだと思います」。
改めて臼杵市の環境について尋ねると「臼杵市には、長年にわたって有機農業を推進してきた歴史があります。今から有機農業を始めたい人にとって、支援や地域の理解が得やすく、チャレンジしやすい環境と言えるかもしれません。また、土づくりセンターの存在は大きいですね。この堆肥があれば最高の野菜が作れると確信しています」と語ります。

最後に槌本さんは「中山間地に可能性を感じる就農者が増えていけば、高齢化や過疎化が進む地域を、もしかしたらもう一世代、二世代と、未来に繋いでいけるんじゃないかと思っています」と語ってくれました。
中山間地で有機農業に挑戦する槌本さんは、これまで不利とされてきた条件のなかでも収益を上げ、人材を雇用し、自走運営を可能としました。その取組は有機農業や食文化だけでなく、集落をも未来へ繋ぐ、持続可能性への大きな挑戦でした。槌本農園はこれからも、臼杵市における中山間地農業の可能性を探り、提示し続けてくれることでしょう。
このような挑戦に対して、地域や消費者が理解と共感を形にすることも、大分サステナブル・ガストロノミーの実現にとって重要なアクションです。日々の生活で、できることから少しずつでも取り入れる意識を持つことが、よりよい未来をつくる第一歩になるのだと感じました。
*本記事の内容は2025年1月にインタビューしたものです。