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鶏が心地よく生きる場所で 風といのちがめぐる、高原のたまご。

持続可能な食文化を支える事業者FILE1:グリーンファーム久住
[Cover Photo]「久住の風に包まれて、鶏も人も元気でいられるように。三代にわたって、”良い循環”を育ててきました」と話す、代表取締役の荒牧大貴さん。

 


 

大分県竹田市・久住高原の標高700m。
風と光があふれるなかで、鶏たちは生き生きと暮らしています。

そんな毎日から生まれるのが「風のたまご」。
あたたかくて、奥深い味が広がります。

 

風が通う鶏舎で

においのない農場に流れる、穏やかな時間

九重ICから車でおよそ1時間。
風が抜ける標高約700mの高原に、グリーンファーム久住はあります。

ここは、阿蘇くじゅう国立公園の中でも、くじゅう連山を望む高原地帯。
阿蘇外輪山とくじゅうの山々に抱かれ、火山の恵みを受けた土と澄んだ風がめぐっています。

高原の地下120mから汲み上げた天然水、清らかな空気、やわらかな光。そのすべてが、鶏たちの暮らしを支えています。近づくと、風のなかにふっと混じる草と土の香り。遠くから「コッコッ」と鶏の声が響き、その向こうで森の木々が静かに揺れています。

近年は気温の上下が激しくなりましたが、鶏たちは暑さにも寒さにも動じず、この大自然の恵みのなかで、今日ものびのびと過ごしています。

その成長を支えるのが、鶏舎の中を自由に歩き回れるようにした『平飼い』という昔ながらの方法。効率化が進む中で見かけることが減りましたが、最近は“平飼いたまご”という言葉を耳にする機会も増えました。

グリーンファーム久住の鶏舎では、ひよこのころから鶏舎の中を走り回り、羽ばたき、砂浴びをして育ちます。冬は陽だまりに、夏は木陰に。四季の変化に合わせて、鶏たちは心地よく暮らしています。

 

鶏舎に入ってまず驚くのは、においがほとんどしないこと。そんな感想を伝えると、代表取締役の荒牧大貴さんは穏やかにこう教えてくれました。
「実はこの床、鶏ふん100%なんです。鶏の糞が微生物の力で分解・発酵してくれるので、においが抑えられて、長く清潔な状態を保てるんですよ。」

鶏舎の床には、鶏自身が日々踏みしめながら育てていく“発酵層”が約50cmあります。手に触れると、どこか土を思わせる香り。時間を重ねるほどに微生物の状態が安定し、鶏にとって心地よい場所になっていくと、荒牧さんは話します。

この発酵層とともに、光と風の通り道を大切にした鶏舎には、清々しい空気が流れています。

コッコッコッ、カアカアと元気に大合唱。鶏舎の止まり木を、雌鶏たちがのびのびと歩く。

床の鶏ふんには多様な微生物が住み、その働きで有害な菌が増えにくく、鶏にとって豊かな環境が育まれている。

 

平飼いは、特別じゃない

自然のリズムにまかせて生きるという選択

 

グリーンファーム久住は、祖父の代から平飼いたまごをつくってきました。
「自然にも、鶏にも、人にも、地域にも良い仕事を」と願い、夫婦でともに働ける仕事をと、1963年に養鶏を通した営みが静かに根を下ろしたのです。

鶏舎の中を鶏たちは走り、羽ばたき、砂浴びをし、太陽や風、土の感触を感じながら過ごします。
自然に近い環境のなかでストレスが少なく、体が丈夫で、たまごはもちろんのこと、生命力そのものが強いといわれています。

「平飼いは難しいことではないんです。」
荒牧さんは少し間をおいて、穏やかに話してくれました。
「手間がかかるように見えるけれど、鶏をよく見て、気持ちよく過ごせるようにしてあげるだけ。大げさな機械設備が要らないんですよ。」

鶏たちの暮らす空間には、止まり木、水場、餌場があり、思い思いの場所でくつろいでいます。
水を飲む鶏、ごはんをついばむ鶏、砂浴びをする鶏、止まり木から周りを眺める鶏。それぞれが、自分の時間を生きています。

グリーンファーム久住で実践している平飼いには、いくつかのかたちがあります。
雄と雌がともに暮らすもの。
ひよこのころから雌だけで成長するもの。
そして、基本は平飼いで、産卵期だけ開放型ケージ鶏舎で過ごすもの。

どの方法にも共通しているのは、鶏がストレスを感じず、こだわりの飼料で育つ環境を守ること。成長に合わせて、ひよこ用・育成期・産卵期と鶏舎を分け、その時々のリズムに寄り添って育てています。

地下 120m から汲み上げた天然水。澄んだ一滴をたくさん飲んで喉を潤して。

鶏が快適になるように。その先に、食卓の「おいしい」が広がっていく。

砂浴びは、体を清潔に保つ本能のしぐさ。鶏舎のあちこちで。

 

命のめぐみを、子どもたちへも

くさみのない、まろやかな味わい

 

ここで育つたまごは、みずみずしく健やかです。
その背景には、鶏たちが元気に暮らす平飼い環境のほか、阿蘇くじゅうの火山土壌に育まれたミネラル豊かな地下水、そして安全で栄養バランスのとれた飼料にあります。

「たまごは、母鶏が口にしたものがすべて濃縮されたもの。だからこそ、口に入るものがいちばん大事なんです」と荒牧さん。

母鶏がたまごを産む時期には、ポストハーベストフリー(収穫後の農薬不使用)のとうもろこし、分別流通管理を行った“遺伝子組み換えでない”穀物、そして国産の飼料用玄米など、20種類以上の原料をバランスよく配合しています。
また、すべての原料は残留農薬や放射能検査をクリアしたものだけ。
産卵期以外でも季節や鶏の状態に合わせて、配合や内容を少しずつ調整しています。

1羽が1日に食べるのは、およそ120gの飼料。その半分ほどの60gが、やがて一粒のたまごになる。小さな日々の積み重ねが、“おいしい”をつくっていくのです。

そうして生まれたたまごは、臭みや雑味がなく、まろやかな味。
「遠くに住む子どもが『ここのたまごが食べたい』って言ってくれるんです。」
そんな声が届くたびに、農場の力になるのです。

 

1羽1日約120gの飼料から、約60gのたまごが生まれる。

採れたての平飼いたまご。レモン色の黄身がこんもりと盛り上がり、白身にも弾力がある。

 

高原の風が育てた、新しいブランド

大地とともに歩む「風のたまご」

 

2024年の秋、久住高原の風を感じながら、グリーンファーム久住の新しいブランド「風のたまご」が生まれました。

長年、この地に寄り添う営みのなかで、自然とこの名前が生まれたようでした。山並みの風景を思い起こす、心地よい響きです。

祖父の代から、土地と鶏と向き合いながら歩んできた彼らが、あらためて自分たちの原点を見つめ直し、「この場所の恵みを、もっと誇りをもって伝えたい」と願って立ち上げた試みです。

「風のたまご」は3種類あります。
産卵期のみ開放型ケージで育てた、バランスのよい味わいの〈風のたまご Basic〉、雄と雌をともに育った濃厚な〈平飼い有精卵〉、そして、国産飼料98%を実現した、黄身がレモン色の〈平飼いたまご〉。
どれも、これまでの営みの中で磨かれてきた知恵と、この土地の風土が結びついたもの。

「機会があれば、ぜひ大分の街で味わっていただきたい。そして、毎日の食卓で“良いたまごってこういうことか”と感じてもらえたら」
荒牧さんは、笑顔でそう話します。

 

「久住の風とともにある環境こそが、うちの原点です」。 “風のたまご”の名には、この土地への敬意が込められている。

〈平飼いたまご〉は国産飼料 98%。〈Basic〉は開放型ケージ鶏舎で生産、〈平飼い有精卵〉は雄雌同居の希少生産。

「風のたまご」を味わいに、大分へ

農場の見学はできませんが、「風のたまご」を楽しめるカフェやお店が、竹田をはじめ大分県内で見つかります。
旅の途中で、大地の恵みをぜひ感じてみてください。

直営カフェ カプリセス(竹田市) 
「気まぐれ」という意味の〈カプリセス〉は、子育て中のママや地元の人がほっとできる場所として生まれました。
人気は〈風のたまご〉を使ったプリンやオムライス、カルボナーラ。
窓の外に広がる竹田の風景が、食後の余韻をやさしく包みます。

カフェ カプリセス
〒878-0025 大分県竹田市拝田原234-1 Googleマップ
TEL:070-3163-6892
営業時間:10:30–16:00(ランチ10:30–14:30)
定休日:不定休(店休はInstagramにて案内)
駐車場:7台
Instagram:@caprices_taketa

 

直営店 とり to たまご 本店(竹田市)

たまごの甘みをとじこめたお菓子工房。
扇森稲荷神社のそばに立つ店内には、プリンや焼き菓子がずらり。
いちばん人気は、なめらかな〈ご褒美プリン〉。
イートインでは、できたての「たまごかけごはん」も味わえます。
“たまごって、こんなにおいしかったんだ”と感じる一皿です。

とり to たまご 本店
〒878-0025 大分県竹田市拝田原769-1 Googleマップ
TEL:0974-63-0115
営業時間:9:30–17:30
定休日:不定休
アクセス:JR豊後竹田駅から車で約5分
Instagram:@toritotamago_kuju

 

そのほかのお店
・B-speak(由布市)
湯布院の人気ロールケーキ店。
やさしい甘さの中に、たまごの香りが広がります。
Googleマップ

・サリーガーデン(大分市)
大分市にあるシフォンケーキをはじめとした素朴な焼き菓子店。
お菓子には、〈風のたまご〉が使われています。
Googleマップ

 

風土と暮らしに根差して

若い世代がつむぐ、高原の小さな循環

鶏も人も自然も、無理のない関係で生きる。グリーンファーム久住の営みは、まさに“サステナブル・ガストロノミー”のかたちと言えるでしょう。

久住の風に包まれたこの場所には、若い作り手たちが少しずつ集まりはじめています。平均年齢は約38歳。農業の平均が70歳近くといわれるなかで、この数字は希望そのものです。

「良いたまごを育てるだけでなく、いい職場もつくりたい。」
荒牧さんは、そうまっすぐに語ります。
休日を整え、安心して働ける環境を少しずつ整えながら、5年前11人だった仲間は、現在40人以上に。お菓子やカフェなど、街とつながる仕事を増やすことで、地域に新しい循環が生まれています。

「田舎だからできない、ではなくて、田舎だからこそできることを」という荒牧さんの言葉のあとに吹いた高原の風が、静かにこの場所の未来を示しているようでした。

2023年に建てられた、新しい平飼い鶏舎。風の通り、光の入り方。鶏たちが心地よく過ごせるように、すみずみまで気を配った。

 

2025年10月取材